11月2日に行われた上智史学会例会ミニ・シンポジウムのテーマは「地域の公共性から歴史学を考えなおす─立石と諏訪におけるパブリック・ヒストリーの試みから─」でした。
まず、牧田義也先生(一橋大学)は「協働と敵対性─立石企画の可能性と課題─」というタイトルで、今夏に歴史学研究会の特設部会企画として実施された、開発によって変わりゆく街・葛飾区立石でのパブリック・ヒストリーの実践についてご講演されました。牧田先生は企画の中での苦悩や反省を交えながら、予定調和的な「共同」を乗り越え、時に「敵対」を生みながらも「協働」するパブリック・ヒストリーを目指すべきだと、お話されました。特に興味深かったのは、パブリック・ヒストリーの前轍として、牧田先生ご自身も関わる現代アートの理論的展開に言及されていたことでした。アート・プロジェクトがアクティヴィズムと結びついた経緯を参考にすれば、パブリック・ヒストリーにも地域に根ざした「歴史学的想像力」を惹起する力を持たせられるのではないかと改めて感じました。

牧田義也氏
続いて北條勝貴先生(上智大学)は、「負の歴史をめぐる合意形成─〈余所者〉が問えるもの/問えないもの─」というタイトルで、東北での文化財レスキューや長野県諏訪郡富士見町における地域と連携した養狐場の研究などを事例に、パブリック・ヒストリーの持つ再帰性と合意形成の可能性についてご講演されました。北條先生は人と過去との関わりの中で、負の記憶の擬似体験や他者の記憶に寄り添う姿勢、そして自己への内省などが生まれることを強調されていました。そうした実践の中で、たとえ検証不可能でヒストリカル・パストを超越するような解釈であっても、ナラティヴとして人と人とを繋ぐ可能性はあるのだとお話しされていたのが、とても印象的でした。

北條勝貴氏
最後に、全体討論では地域との軋轢の経験から、歴史学者としてのポジショナリティに至るまで、さまざまな議論が交わされました。また諏訪での企画に関わった北條先生のゼミの学生お二方もリアルな感想をお話ししてくださいました。


会場風景
本シンポジウム全体を通じて、従来のパブリック・ヒストリー論を超える新たな問題提起がなされ、歴史学自体の方向性を考える上でも非常に有意義な議論に参加することができました。
一橋大学院・修士課程 内川創達
(撮影:西澤光太郎)