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2014.08.03

児嶋院ゼミ紹介

みんなで頭をひねって考える

2012年度学部卒業生
石川柊(上智大学大学院博士前期課程在学中)


 現在、上智大学院における西洋中世史の授業、つまり児嶋先生の担当されている授業は、年間で計3時限(「中世演習」2時限、「中世特研」1時限)開講されています。児嶋先生のご指導を仰ぐ大学院生は、基本的にこれらの講義にはすべて出席します。
 今回は、それらの授業の風景、およびそこに参加する意義や魅力を、ささやかながらお伝えしたいと思います。

 まずは具体例を挙げながら、授業中のシーンを描写することにしましょう。
 2014年度春学期の「中世特研」では、中世の手書き書体をテーマとし、地域や時代ごとの差異、変遷を学びました。そして実際に写本のスクリプトを解読し、活字に書き起こし(トランスクリプション)、内容を分析するという作業も行いました。学部生や博士前期生レベルの場合、利用する史料の多くは既に活字化されたものです。しかしながら、古代や中世における真の意味での一次史料とは、印刷された単なる「文献」ではなく、当時の人間がその手で生み出したナマの「物質」です。古い書体を分析する研究(パレオグラフィー)の視点、あるいは有難みというものは、活字の史料だけを見ていては失われがちですが、考えてみればそれ無しでは研究が先に進まない、いわば基盤に位置するものであり、今回の特研では改めてその意義を確認させられました。
 しかし、私たちはプロではありません。「古い書体を解読する!」と言っても、ことはそう簡単には進みません。授業はだいたい次のように展開します。
 まず、私を含む院生たちが、自らの研究に係る写本のコピーを持参します。そしてそれぞれの写本を、皆でじっくり観察、解読していきます。ぱっと見、今のラテン・アルファベットと大きく異なり(sがfみたいになっていたり、pに線や丸がついて単語をなしたり……)、写本ごとでも大きな違いがあるのですが、幸い児嶋先生がマニュアル本を持っているので、意外にすらすら進むこともあります。
 ただ、やがて必ず壁に突き当たります。文字が擦れて読めない、単語が辞書に見当たらない、解読した文が意味不明、単なる写字生のミスなんじゃ……等々。辞書を睨んだり、スクリプトを穴が開くほど見つめたりして、うんうん唸りながら、ああでもない、こうでもないと皆で意見を交わします。やがて、紆余曲折ありつつも答えらしきものが浮かび上がってきます。そんな風にして「児嶋ゼミとしての」解読作業をひとつひとつ進めていくわけです。

 このように、色々と模索しながら自分なりの答えを見出していくのが、児嶋院ゼミの特徴であるといえます。そして私にとっては、これが同時に魅力であるとも思えるのです。先行研究による明確な解答や規範を知り、なぞるだけではなく、自分たちで積極的に答えを掴み取っていく姿勢。思いもしなかった視点から答えが見つかったり、後から振り返って、実はそうだったのか! と気づいたときの衝撃は、筆舌に尽くしがたいものがあります。
 歴史やその研究のもつ意義については既に多くの方がお話されていると思いますので、ここでは触れません。しかし研究を進めるにあたり、個々人の抱く様々な「研究の面白さ」というのも、必ず重要になってきます。児嶋院ゼミという場は、それらに気づき、互いに高めていける場だと思います。それはゼミの雰囲気やプログラム、あるいは先生の人柄なども関係してくるのでしょう。もちろん児嶋先生のご専門は美術史であり、ゼミで扱う内容もそれに近いものとなります。しかしゼミには多様な興味関心をもつ学生がおり、先生は、彼らと美術史をつなぐ視点というものを提供してくださいます。私自身、入学当初は美術史の魅力というものをさほど理解していなかったのですが、今はその持つ可能性と意義、そして面白さを、自分の研究に関連付けながら強く感じています。他の学生もおそらくそうでしょう。
 以上、ほんの一面しかお伝えできませんでしたが、児嶋院ゼミについて少しでも興味を抱いていただければ幸いです。いつか、ともに頭を抱えながら問題に立ち向かえる日を楽しみにしています。


Ekkehard von Aura, Chronicon universale(写本、12世紀前半成立)。
フランク人の形成を、トロイア戦争の生き残りと結びつけながら説明している。
出典は、S. H. Thomson (ed.), Latin Bookhands of the Later Middle Ages: 1100-1500 (Cambridge, 2008), no. 31.


カロリング小文字体(Carolingian minuscule)
出典は、B. Bischoff (ed.), Latin Paleography: Antiquity and the Middle Ages (Cambridge, 1990), p. 113.