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2011.10.14

英仏への留学体験記

 檜垣 盛 (3年) 

<留学を決めるまで>

 私は、最終的に英仏2ヶ所に、合計で約1年間の留学をしました。学部の2年目を通年で休学し、前半はイギリスのオックスフォードにある語学学校、後半はフランスのディジョンにあるブルゴーニュ大学の語学研修科への留学です。とはいえ、それは最初からそのように計画していたわけではなく、向こうでさまざまな経験をして当初の計画を変えた結果、そのようになったのです。その結果、思考も認識も、ほとんどのパラダイムが大きく変化し、達成感を感じる1年間になりました。このパラダイム・チェンジこそが1年間の最大の成果だと思います。

 まず、そもそも2年時に1年間休学して海外へ行くという決断をした経緯は単純でした。私は大学に入るまで愛媛の田舎で育ち、都会の進学校とは正反対の環境で受けた教育と、たまたま交友を深めた友人たちとの語学力の差という点で、上京してきた初年度は強いコンプレックスを抱いていました。そこで、ある屈辱的な体験から、「大学入学の準備不足」を名目に、いちど大学から離れて準備し直したいと思い、まず休学と海外への投身を決断しました。この時点での私は、学部生として要求されるものは、各主要学問の概観を踏まえた専攻科目の選択動機と、それ相応の英語という特定の言語の運用能力だと、思っていました。

 そこから、1年間という有限の時間を最大限に利用する為に、語学学校への通学を通年で契約しました。他の言語については復学後に交換留学も考えていた事から、ひとまずこの時点では必須条件である英語を学ぶ必要があると感じ、英語圏に行くことを計画しました。教育機関での勉学だけではなく滞在そのものを目的として広く見ていたので、数ある英語圏の中で学費と物価が比較的安価でビザの取得も容易な場所を探していました。西洋史コースを選択して「ヨーロッパ史に興味がある」と決め込んでいた自分にとって、イギリスというヨーロッパにおける英語圏は魅力的でした。大学ではなく語学学校を選んだ理由は、もともとは現地滞在に簡素な語学研修を付随させることから留学を検討し始めた点と、語学教授や試験対策の「スペシャリスト」による教育機関だという謳い文句から、大学よりも語学のみに集中して学べると感じた点が挙げられます。


<イギリスの語学学校の実際>

 その判断は、完全なる失敗でした。まず、British Council公認の英語教育を専門とする教育機関であっても、語学学校の教師に就業資格などはなく、「スペシャリスト」とは程遠い人たちが教師として働く語学学校が多いのです。一般的に私のイメージしていた「語学学校」とはかけ離れていて、私が選んだ語学学校も、学費に比べると遥かに程度の低いものでした。この語学学校に行く2ヶ月前から、東欧や中東を旅していた経験から、英語の運用にある程度慣れていたため、私は入学当初から上級のレベルにクラス分けされ、彼らの課す試験の多くは日本の大学受験レベルの文法知識を内包するもので、夏までには校内で最上級のレベルまで上がりました。どの教師も、特に英語教授法を学んでいたり、応用言語学における語学教授法や第二言語習得などといった分野を学んでいるわけではなく、それらの概念に関心すら抱かず、「英語を母語とする」といった安易なクオリフィケーションによる就労でした。上智大学の初年次に、心理言語学に関する概説授業を受けていたことから、自分の言語習得という目的に対する方法論も、より実践的な内省と観察を心がけていたため、この語学学校の授業内容には不満を感じて、夏には授業に出る利点は見いだせなくなりました。


<計画変更へ>

 語学学校そのものは通年の長期コースで学費を納入しており、退学しても学費の返還などはありませんでした。そして、オックスフォードという世界最高レベルの学府のある街という地運は、素晴らしい出会いと交流をもたらしてくれたので、この地にいること自体は学ぶべきことが多い状況でした。もはや学校は生活の単なる小要素でしかありませんでした。更に、自分の留学エージェントの倒産から来る契約上の金銭的問題もあり、学校を離れることに時間がかかってしまったのです。その学校を離れないでいようかと躊躇しているうちは、オックスフォードにあるフランス語の語学学校に通ったり、島内のみならずヨーロッパの他地域や北アフリカへも足を伸ばすなど、 人脈をたどって多くの人々や事物に出会い、それらから多くを学びました。このころには、「言語」や「学問」に関する認識も現在のものに近いものとなり、帰国してから、研究に限らず社会勉強全般を、限られた在学期間の中で留学より優先させるべきだと思うようになり、帰国までの海外生活を悔いなき物にしようと決心していました。そして、フランス語を更に学ぼうと、次の新天地をフランスに求めました。

 以上の経験を踏まえた上で、フランスへの留学は非常に有意義に過ごせたと思います。フランス国内での留学を目指していたところ、ブルゴーニュ大学に日程の合うコースが用意されていることを知り、選考の結果、入学が許可されました。オックスフォードにあるブルックス大学をオックスフォード大学諸カレッジや諸語学学校と比較して分った様に、大学に設置されている語学研修科の方が、学術的なパラダイムに基づいてきちんと監督されており、また語学教授を収めた教師がきちんと教えることからも、幾分か有意義な生活が送れました。個人的に師事させて頂いた大学院生とも出会い、簡素ながらも現象学の初歩的な手解きも受けました。


<おわりに>

 通年の期間を正しく企画すれば、もっと有意義だったろうと思えるコースの体験談も、各所で出会った人々から多く聞くこととなりました。ヨーロッパの多くの大学では、日本の予備校の様な準備コースが用意されていることも多く、科目受験でないためそこでは大学生として必要になる準備がなされ、それに付随した語学科目もあり、非常に有意義と聞きます。十分な語学力が示せるのであれば、学部への年間留学も選択肢にあり、大学間の交換留学提携を利用しなくとも、それに準ずる有意義な選択肢も多くある様です。 私は、都内の留学エージェントを多く訪れて留学計画を立てましたが、個人に合った情報を提供できるのは、各個人と似た境遇や動機から留学した先立達だと思います。ぜひ史学科の中でも情報が共有され、貴重な学生生活におけるより有意義な選択がなされることを祈っております。


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