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2011.12.12

乙女のクラシック



乙女のクラシック』(新人物往来社)
CD付き1700円
2011年12月25日発売

本学科卒業生の高野麻衣さんが、初の単著の刊行にあたり、
以下のとおり、ご寄稿くださいました。【以上、管理者】


 “乙女のクラシック”というテーマで、文筆の仕事をはじめて4年目になる。はじめての著書――フランス人の音楽プロデューサーと作ったクラシック・ガイドを出版して、まもなく届いたそのメールは、元・史学科の学徒としてはおなじみの歴史出版社からの執筆依頼だった。

 「“乙女のクラシック史”を、書いてほしいのです」

 ついにきた、とおもった。音楽と歴史は、私の原点だったから。いつだって、ふたつをともに考えてきたし、なにより歴史という物語(His-story)のなかに流れるBGMとしての音楽が好きだからである。

 18才の夏、わたしは当時大学にあったザルツブルクへの夏期研修プログラムに参加した。湖畔の宮殿での研修が始まる前に、首都ウィーンにも立ち寄ったのだが、これがやはり、運命だったとしか言いようがない。

 真っ赤なペンキを塗りたくられた分離派館でクリムトの壁画『ベートーヴェン・フリーズ』を目の当たりにし、入り口に刻まれた言葉――「時代にはその時代の芸術を、芸術には自由を」に胸をつかれたことで、わたしは「芸術家サークル」だとか「あらゆる芸術は音楽の状態にあこがれる(by ウォルター・ペイター)」だとかにとりつかれてしまった。井上ゼミには最初から「19世紀末の都市と音楽史について書く」ために相談の上で参加し、ウィーンを生きた音楽家マーラーを卒論テーマにした。

 世紀転換期特有の革新への希望と閉塞感、そこから生まれゆく新しい芸術の波、文学や絵画、社交界とのジャンルを超えた交流、刺激的なカフェでの論争、そんな音楽家たちの日常を考え、胸がいっぱいになる。みなさんならきっと、わかってくださるはずのこの感覚を、私は、私の「音楽史」で表現したかった。

 もちろん「通史を書く」というのは、当然ながら、生やさしいことではなった。まず、自分が好きなある人や時代、つまり点と点を結ぶ線を把握しなければ話にならない。登場する国も人物も多岐にわたるため、どのように舞台を移すかで悩み、プロットは何度も書き換えられた。何年かぶりに悉皆調査を重ね、図書館と書店とに通う日々がつづいた。偏愛の中立地点から事実を俯瞰する視座を含めて、史学として身につけたことが、実学となるような経験だった。

 なにより肝心なのは、そうして俯瞰するなかで、人と人を結びつける「音楽」というものに対して寛容でありたい、という自分の立ち居地を確認したことかもしれない。男性が優位な音楽ジャーナリズムのなかで忘れ去られてしまった――しかし密やかに伝えられてきた女の子なりの音楽とのつきあい方、ドレスのようにお菓子のようにいとおしいその存在、そして少女マンガとのつながり。以上が、今度は初夏に出版される本のテーマとして決まっている。その次は、明治や大正の女学生文化へとさかのぼる予定。

 書くごとに、書きたいテーマが広がっていく。音楽と歴史と乙女という、未踏の雪原に出会えたわたしはほんとうに幸福だ。あとは一歩一歩、刻むように思いをこめて、綴っていくだけである。

【プロフィール】
高野麻衣(たかの・まい)
2003年度卒業生。文筆業。大正乙女デザイン研究所研究員。
『CDジャーナル』、『サイゾー』等に執筆する他、
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭などイベント企画にも携わる。
著書に『フランス的クラシック生活』(ルネ・マルタン 著、高野麻衣 解説、PHP新書)。

【ブログ】
乙女のクラシック | GIRLS GUIDE to Music, Movie & Books
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【ツイッター】
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